Monthly Archives: May 2016

インデント無しの組版は一般的? その1

*この記事は第35回タイプトークスの講演で話した内容の一部をベースにしています。*

欧文組版に関する質問で多いのがインデントにまつわるもの。インデントの有無や、有る場合はどのくらい開ければいいのか、深いインデントが流行っているがどう思うか、などなど。今回はインデント無しの組版について書きたいと思います。

例えば前回の記事「マクロ・タイポグラフィとマイクロ・タイポグラフィ」で取り上げた『グリッド・システムズ』。シンプル且つシステマティックなデザインで一見かっこいいのですが、いざ読もうとするとインデント無しのラギッド組みなので段落の始まりが分かりにくいことに気付きます。

この本はドイツで60年代に出版されたバウハウスを題材とする本ですが、この本もインデント無しのラギッド組み。コラムの幅が狭いため一層パラグラフが拾いにくく読みづらい上に、ハイフン処理もされていないため(単語の長いドイツ語なのに!)行末の扱いがデコボコです。

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次の本は90年代に英国のハイフン・プレス社から出版されたオランダの有名なグラフィック・デザイナー、カレル・マルテンスさんの作品集。欧州のグラフィック・デザイナーの本棚には必ずこの本があるのでは?というほど大人気の一冊です。

ページをめくるだけで楽しい本ですが、この本もインデント無しのラギッド組みです。英語とオランダ語の二ヶ国語組版にもかかわらず、全く組版に差をつけず段落間のスペースさえ開けていないので、読み手には不親切な組版です。(「見る」本だからいいの!という見方もできますが。)

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こちらは2011年出版『Bauhaus Reisebuch』。バウハウスの影響を受けている建設やデザインを見て回るガイドブックです。全体的にデザインも組版もきちんと考えられている印象ですが、この本もインデント無しのラギッド組み。

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こちらは去年の「ドイツの美しい本」のカタログですが、これまたインデント無しのラギッド組み。

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こうしてデザイン系の本ばかりを見ていると、まるで「インデントしない」「段落間もあけない」という組版が主流なのかと勘違いしそうになりますが、一般的な本屋さんに行くと、インデント無しの組版なんて99%見かけません。

なぜかというとズバリ読みにくいからです。一般的な書籍や雑誌の組版で「インデントしない」「段落間もあけない」をしてしまうと、読者から苦情が来るでしょう。

それではなぜデザイン本で「インデントしない」「段落間もあけない」組版が多いのでしょうか?

それはバウハウスやモダン・タイポグラフィの流れをくんでいるという場合と、本の内容がモダニスト・タイポグラフィやデザインなので組版そのものも意図的にその時代を引用してる、という場合があります。

上の例で挙げた『Bauhaus Reisebuch』は、内容がバウハウスなので組版もその時代を反映させたという良い例でしょう。

自身がデザイナーであると、文芸書などの一般書籍よりもやはりデザイン系の本を手に取る機会が多いと思いますが、上記の理由からデザイン系の、特にモダン・デザイン系列の本で使われている組版をそのまま模倣するのには注意が必要です。

 
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マクロ・タイポグラフィとマイクロ・タイポグラフィ

*この記事は第35回タイプトークスの講演で話した内容の一部をベースにしています。*

皆さんはマクロ・タイポグラフィやマイクロ・タイポグラフィという用語を耳にしたことはあるでしょうか?欧米では近年タイポグラフィの話になるとよく出てくる用語です。

マクロ・タイポグラフィというのはレイアウトやグリッド、組版形式など一般の人が見てもすぐに分かるような組版の大きな枠組みのことです。

それに対しマイクロ・タイポグラフィというのは行間や単語間・文字間のスペーシング調節、ハイフンの設定や文末の調整、組版ルールや表記法の設定と統一など、地味で時間もかかる、組版の細かな調整のことです。

ここ数年ほどデザイン業界では書体デザインやタイポグラフィへの関心が高まり、イベントや書籍も増えています。しかしながら多くの場合はマクロ・タイポグラフィの領域で留まっており、マイクロ・タイポグラフィについてはまだまだ情報源・情報量ともに少ないのではないかと感じています。

例えば日本で欧文タイポグラフィを習う時に必ずと言っていいほど出てくるのがこの本。50年代、60年代のスイス・タイポグラフィの集大成とも言える本、ヨゼフ・ミュラー=ブロックマンの『グリッド・システムズ』です。
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合理的なシステムに基づいたデザインは言葉を差し替えても応用できる、いわば普遍的な考え方の部分が多く(だからこそインターナショナル・スタイルという別名があります!)学ぶべき20世紀デザインの理論であることに疑いはありません。

でも少し注意して組版を観察すると、

1 ラギッド組み・インデント無しなのでパラグラフの終始が分かり辛い
2 段落最後の行が一単語のみで終わる頻度が高い
3 行末の扱いが大雑把

など、マクロ・タイポグラフィ的には画期的なスイス・タイポグラフィとはいえマイクロ・タイポグラフィの視点から見るとマイナス点が多く見受けられます。

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ロシア・アヴァンギャルドやバウハウスなどのデザイン&芸術運動と同様に、スイス・タイポグラフィの提唱者も建築や芸術をバックグラウンドに持つ人が少なくありません。それが何を意味するかというと、全体の構成は理念に基づいてカッコよくデザインされていても、読みやすくするための細かい組版の調整に関しては注意が払われていないことが多いのです。

また、合理性やモダニティを追求し過去を一掃しようとしたあの時代特有のイデオロギーに基づいた実践例もあるので、そのままお手本とするのは考えものです。インデント無しの組版や小文字だけの組版などはその良い例でしょう。

マクロ・タイポグラフィがある程度は「見た目」や「感覚」で判断して実践できるのに対して、マイクロ・タイポグラフィは使われる文字や言語、そして組版ルールの知識を必要とします。それがマイクロ・タイポグラフィが敬遠される理由の一つなのかもしれません。

ただ感覚とは違って、組版の技術は訓練すればかなり上達しますし、組版の腕が上がればデザインがさらに楽しくなります。遠くから見てかっこいい建築でも、細部のデザインや作りが雑だったら興ざめしますよね?かといって細部は入念に作られていても、全体のデザインがイマイチだとそれも困りもの。マクロ・タイポグラフィとマイクロ・タイポグラフィも同じで、相反するものではなく両方が出来て初めて素晴らしいデザインと言えるのではないでしょうか。

次回はモダン・タイポグラフィとインデントの関係について書きたいと思います。

 
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