インデント無しの組版は一般的? その1

*この記事は第35回タイプトークスの講演で話した内容の一部をベースにしています。*

欧文組版に関する質問で多いのがインデントにまつわるもの。インデントの有無や、有る場合はどのくらい開ければいいのか、深いインデントが流行っているがどう思うか、などなど。今回はインデント無しの組版について書きたいと思います。

例えば前回の記事「マクロ・タイポグラフィとマイクロ・タイポグラフィ」で取り上げた『グリッド・システムズ』。シンプル且つシステマティックなデザインで一見かっこいいのですが、いざ読もうとするとインデント無しのラギッド組みなので段落の始まりが分かりにくいことに気付きます。

この本はドイツで60年代に出版されたバウハウスを題材とする本ですが、この本もインデント無しのラギッド組み。コラムの幅が狭いため一層パラグラフが拾いにくく読みづらい上に、ハイフン処理もされていないため(単語の長いドイツ語なのに!)行末の扱いがデコボコです。

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次の本は90年代に英国のハイフン・プレス社から出版されたオランダの有名なグラフィック・デザイナー、カレル・マルテンスさんの作品集。欧州のグラフィック・デザイナーの本棚には必ずこの本があるのでは?というほど大人気の一冊です。

ページをめくるだけで楽しい本ですが、この本もインデント無しのラギッド組みです。英語とオランダ語の二ヶ国語組版にもかかわらず、全く組版に差をつけず段落間のスペースさえ開けていないので、読み手には不親切な組版です。(「見る」本だからいいの!という見方もできますが。)

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こちらは2011年出版『Bauhaus Reisebuch』。バウハウスの影響を受けている建設やデザインを見て回るガイドブックです。全体的にデザインも組版もきちんと考えられている印象ですが、この本もインデント無しのラギッド組み。

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こちらは去年の「ドイツの美しい本」のカタログですが、これまたインデント無しのラギッド組み。

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こうしてデザイン系の本ばかりを見ていると、まるで「インデントしない」「段落間もあけない」という組版が主流なのかと勘違いしそうになりますが、一般的な本屋さんに行くと、インデント無しの組版なんて99%見かけません。

なぜかというとズバリ読みにくいからです。一般的な書籍や雑誌の組版で「インデントしない」「段落間もあけない」をしてしまうと、読者から苦情が来るでしょう。

それではなぜデザイン本で「インデントしない」「段落間もあけない」組版が多いのでしょうか?

それはバウハウスやモダン・タイポグラフィの流れをくんでいるという場合と、本の内容がモダニスト・タイポグラフィやデザインなので組版そのものも意図的にその時代を引用してる、という場合があります。

上の例で挙げた『Bauhaus Reisebuch』は、内容がバウハウスなので組版もその時代を反映させたという良い例でしょう。

自身がデザイナーであると、文芸書などの一般書籍よりもやはりデザイン系の本を手に取る機会が多いと思いますが、上記の理由からデザイン系の、特にモダン・デザイン系列の本で使われている組版をそのまま模倣するのには注意が必要です。

 
麥倉聖子 Twitterアカウント