サンセリフ・ブラックレター体のサイン

前回の記事「ナチスと書体について その1」は非常に反響を読んで多くの人に興味を持って読んでもらえたので、続きの「その2」や、記事に関連するドイツの文字について書きたいと思っているのですが、なかなか時間が見つけられないまま半年以上が経過してしまいました。色々と調べたり、人に聞いたり、思いついた文章を書き溜めてはいるので、近いうちに更新したいと思っています。

さて週末にミッテンヴァルトという町に行って来ました。オーストリアとの国境に近い、アルプスの山々に囲まれたのどかな町で、バイオリン作りが有名だそうです。天気が悪く、無理矢理ケーブルカーで標高2300メートルの山に登るも霧で全く何も見えずがっかりだったのですが、町をウロウロしている時に面白いサイン達を見つけました。

場所の名前「Obermarkt」と記されてあるサインが、一方の壁にはブラックレター体で、向い側の壁にはサンセリフ・ブラックレター体で取り付けられているのです!

(このブログで使っている書体の分類の名称については前回の記事「ナチスと書体について その1」をご覧下さい。)

 

Obermarkt

Obermarkt_GG

 

同じ単語をこうやって比較出来ると違いが分かりやすくて面白いです。 コンテクストを抜きにしても、ブラックレター体は単に伝統的な古めかしい印象ですが、サンセリフ・ブラックレター体は角張っていて線もほとんど均一で無機質でアグレッシブな感じがします。

他にも「Hochstraße」にて同じ例を見つけました。ブラックレター体では「ch」と「st」がリガチャーになっていますが、サンセリフ・ブラックレター体ではリガチャーになっていません。

 

Hochstrasse

Hochstrasse_GG

 

ドイツ語がブラックレター体で組まれる場合、伝統的には必ず「ch」「ck」「tz」「sz」にはリガチャーが使われます。「st」もリガチャーが使われる場合が多いです。

形がシンプルなサンセリフ・ブラックレター体ではリガチャー自体が使われないのかな?と思いきや、別のサインにて使われているのを発見!「Pechhüttenweg」の「ch」はくっついてます。

 

Pechhuettenweg

 

でもまた別の通り名「Mathias Klotzstraße」の「tz」にはリガチャーが使われていません。一貫性が無い...。

 

Mathiasklotzstrase

 

私の想像ですが、市内のサイン計画は自治体に任されていて、町なり村なりにひとつはあるサインメーカーさんに発注するのでしょうが、サインメーカーさんは必ずしもタイポグラフィのプロでない。なのでブラックレターの組み方のルールを知らずに作ってしまったんではないでしょうか。

ちなみにサンセリフ・ブラックレター体を見かけるのは稀なのですが、ブラックレター体のサインは観光地の街の中心部ではたまに見かけます。でも使われているのは、歩行者天国や車のほとんど走らない細い小道の場合がほとんどで、普通の車道で目にする事はありません。やはりローマン体を見慣れた現代の私達の目には、ブラックレター体では瞬時に通りの名前を判断しづらいからでしょう。

おまけに、ミッテンヴァルトで見つけたレタリング達の写真です。

 

Hausriedkopfblick

Hubertushof

Landhauszurmuehle

Ferienwohnung-belegt
 
「Haus Riedkopfblick」

「Ferien-Appartementhaus Hubertushof」

「Landhaus zur Mühle」

「Ferienwohnung」
 
全てバケーション用の貸し家のサインです。上から2番目の「Ferien-Appartementhaus Hubertushof」の「t」のバーが異様に低いのに注目。
 
Metzgerei
 
こんなふざけたMも。「Metzgerei」はドイツ語でお肉屋さんです。

 
麥倉聖子 Twitterアカウント